世に数多ある、文章術に関する書籍。我々翻訳会社のスタッフも、物書きの端くれとして、日々読み、学び、実践しています。

このコラムでは、その中でも特に有用と思われる書籍をご紹介します。

      • 執筆者のバックグラウンド
      • 取り上げられている文章のタイプ
      • 執筆者が注目しているポイント
      • その書籍を読むと作文スキルのうちのどこを伸ばすことができるのか
      • どういった人におすすめか

等々、要点を押さえてご紹介。読めば読むほど文章がうまくなる、かも!?

紹介者は実務翻訳者なので、「実務翻訳に役立つかどうか」という視点も。ただ、取り上げる本は翻訳の作文に関するものに限定せず、一般向けの文章術や文芸、文学を対象とした文章術の本も取り上げています。気になったものがあれば、ぜひ読んでみてくださいね。

 

1. 『日本語作文術 伝わる文章を書くために』 著・野内良三(中公新書)

本書は「実用文」を念頭に文章の書き方を教えてくれます。
仕事で文章を書く人ならぜひとも確認したい「ハ」と「ガ」の使い分けのポイントから段落の組み立て方まで、幅広い範囲をカバー。
言わずもがな、実務翻訳の対象は実用文なので、本書には実務翻訳に携わる人に役立つ項目が多々あります。特に第1章は、「ハ」と「ガ」の使い分けや読点の打ち方、語順について説明していて、基本の復習に適しています。
「和文和訳で表現力を高める」の章は、翻訳初心者の方にぜひおすすめしたい内容です。

 

 

2. 『「伝わる日本語」練習帳』 著・阿部圭一・富永敦子(近代科学社)

他人に情報が正確に伝わるように書く練習をする本。前書きに「学生と社会人向け」とあるものの、文章を書く人全般に役立つ内容と言ってよさそうです。
章立ては、語のレベル、文のレベル、文よりは大きく文章全体よりは小さい中間レベル、文章の全体構成のレベルという、4つのレベル。徐々に広い視点へと移っていく構成になっていて、各レベルでの注意点が理解しやすい。
パラグラフの組み立てや文章全体の構成法については、翻訳者の裁量が限定的なので、実務翻訳への直接のお役立ち度は低いかもしれません。

 

 

3. 『文章のみがき方』 著・辰濃和男(岩波新書)

新聞記者、ジャーナリスト、エッセイストだった著者がさまざまな作家、文章家の文章論や作品を読み、そこから学んだことを記した本。
各節の冒頭には、文章論に関する作家の言葉が引用として挙げられていて楽しい。実用文にフォーカスした本ではないものの、実務翻訳に役立つ内容も随所に見られます。たとえば、「肩の力を抜く」「書きたいことを書く」「感受性を深める」といった節は実務翻訳には直接貢献しなさそうですが、「正確に書く」「単純・簡素に書く」「わかりやすく書く」といった節は実務翻訳にも大事なことなので、読む価値ありです。

 

 

4. 『仕事文の書き方』 著・高橋昭男(岩波新書)

著者は工業英語翻訳家からテクニカルライターとなり、10年以上にわたって企業で技術文章論の講座を担当した方。タイトルのとおり、仕事での文章を対象に書き方を指南しています。
発行が1997年で、かなり古い本ですが、工業英語の翻訳に携わっていた方が書いている本であるだけあって、今でも実務翻訳に役立つ点が多く含まれています。
内容を簡単に紹介すると、最初の3章で「仕事文」とはどのようなもので、なぜ重要であるかなどを説明し、正確な文章の書き方、わかりやすい文章のルール、読み手を疲れさせない文章の書き方、文章の説得力を高める方法などの説明が続きます。

 

 

5. 『日本語の作文技術』 著・本多勝一(講談社)

一般にもよく知られているロングセラーの文章本。大きなくくりで言えば、修飾語句の順序、句読点の打ち方、助詞の使い方を説明しています。本書は、翻訳業界でも指示書やスタイルガイドに参考書として挙げられることがあるので、実務翻訳者なら読んでおいて損はありません。ただ、最初のバージョンの発行は1982年とかなり古く、「ハ」と「ガ」の使い分けや分類、考え方には諸説あるので、鵜吞みにせず、本書と同様の内容を扱っている最近の文章本も探して読んでみることをおすすめします。

 

 

 

6. 『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』 著・藤吉 豊、小川 真理子(日経BP) 

タイトルのとおり、文章術のベストセラー100冊のポイントをまとめて、ランキング形式で紹介した本。
文章のジャンルを特定しておらず、書き物全般を対象としています。文章を書くテクニックやコツだけでなく、文章を書くにあたっての準備や心構えを含みます。広く文章術に興味があって、どういった点に優先的に注意すればよいか知りたい人に特に便利。
また、この本で気になる点を見つけて、他の書籍に向かうための「ハブ」として使用するのも有効な使い道です。ただ、ジャンルを絞っていないため、実務翻訳向けかと言われると、少し焦点がずれるかもしれません。

 

 

7. 『正確に伝わる! わかりやすい文書の書き方』 著・石黒圭(日本経済新聞出版社)

文章論を専門とする大学教授による著作。豊富な文例と詳しい解説を通じて、ビジネス文書の書き方・考え方を伝える本です。
ビジネス文書の3条件として、わかりやすいこと、読み手の存在を意識すること、目的を明確にすることが挙げられています。
1章「意味がスッと取れるように書く」、2章「正確に、かつ適切に書く」、3章「読み手に合った敬語で書く」、4章「目的を達成できるように書く」となっていて、各章のタイトルからも実務翻訳に役立つことがわかります。
翻訳をただの訳文ではなく、文書本来の目的を達成できる「商品」にするうえで必要な考え方、視点を得るのに役立ちます。

 

 

8. 『伝わる文章を書く技術 「型」にはめれば、必ず書ける!』 著・向後千春(技術評論社)

文章が書けなくて悩んでいるビジネスパーソンや学生を対象に、「教えること」を教える大学の先生が書いた文章本です。
この本の特長は、まず200文字(一段落)から書くことに取り組んでいること。最初から長い文章は書けそうにない、と感じている人でも抵抗が少なく入っていける嬉しい作りになっています。
本書で紹介されている提案文、報告文、勧誘文、お願い文、という実用文のパターンも、文章作成時の内容の整理に役立ちそうです。
1,000文字の書き方の章では、企画書・報告書・レポート・エッセイなど、さまざまな実用文の型を紹介していて、確実に1,000文字の文章を書けるガイドラインを引いてくれています。
自分が大学生のとき、1,000文字の読書感想文を10本書くという課題がありました。この本を読んでいればもっと楽にクリアできたのではないかと思ったのですが、17年くらい遅かった。
実務翻訳に直接は関係しないものの、「翻訳は好きだけど普通の文章を書くのは苦手だ」(意外といると思うんです)という人は読んでみるとよいかもしれません。本書の説明のベースにある「対象読者の明確化」、「論理性」、「わかりやすさ」への意識は、広い観点から見れば翻訳する際に”効いて”くるに違いないでしょう。

 

9.『ロジカル・ライティング』 著・清水久三子(日本経済新聞出版社)

ビジネス文書の書き方を実践的に説明した本。著者は、コンサルタントの人材育成、コミュニケーションスキルの教育に長年携わってきた方。
段落構成や論理構成の説明に終始することなく、文書の対象読者と目的を明確化して、読み手にどうしてもらいたいか、どうすれば動かせるかという視点がしっかりと組み込まれているところが、本書の優れている点です。仕事でビジネス文書を作成する機会が多い人にぜひ読んでもらいたい一冊。
私が特に印象に残っているのは目的設定について説明した箇所。翻訳時に、文章を読んで「どんな行動をとってもらいたいのか」「そのために何を理解してもらいたいか」といった視点を持てているかどうかは、実務翻訳の成果物の出来映えに大きく影響してくると思います。

 

10. 『ビジュアル 資料作成ハンドブック』 著・清水久三子(日本経済新聞出版社)

著者は前回と同じ清水久三子氏。こちらはビジネス資料を作成する際のハンドブックとなっています。
文書タイプ別のスライド構成と目的構成のほか、文字・文章作成、表作成、グラフ作成、図解、視覚効果のテクニックについて詳細に解説。ひとつの項目が見開き2ページで説明されていて参照しやすく、ページ端に章の見出しが記載されているのも便利です。タイトルどおり、使いたいときにすぐに使えるハンドブック。
実務翻訳者として翻訳に直接的に役立ちそうなのは文字・文章作成の章。そのほか印象に残ったのは項目13「目的の明確化」。翻訳時にも文章の目的を意識すべきだと再確認できました。

 

 

11. 『日本語練習帳』 著・大野晋(岩波新書)

国語学の教授、大野晋先生による書籍。文章本の大定番です。
第1章は単語に敏感になる練習。訳語選択の際に自然で正確な表現を選べるようになるかもしれません。
第2章は主に「は」「が」の使い分け。
第3章では文末の「ノダ」と接続助詞「ガ」の乱用を避けるべき理由を説明。逆接でない「ガ」は実務翻訳では好まれないので要チェック。
第4章では、縮約を通じて文章の骨格について検討。
第5章は敬語の話。
どの章からも、優れた日本語を書くうえで大事なポイントが学べます。何より素晴らしいのは、本書そのもので優れた日本語が実践されているという点です。一冊読んで不明瞭なところがありません。わかりやすいだけでなくリズムがあって心地よい。それが本書に強い説得力を与えています。

 

12. 『理科系の作文技術』 著・木下是雄(中公新書)

物理学者の先生が理科系の研究者、技術者、学生に向けて書いた本。そのため、対象となる文書は論文、レポート、説明書、仕事の手紙など。理系の文章術の本として定番になっているだけでなく、理系以外の人にとっても、優れた文章本として読めます。
第5章「文の構造と文章の流れ」では、英語と日本語の違いという観点も交えつつ、文章の流れを良くする要領を説明。流れの悪い文を「逆茂木」型と示していて、視覚的にとてもわかりやすい。
第8章「わかりやすく簡潔な表現」も実務翻訳に有効です。「文は短く」、「格の正しい文」、「まぎれのない文」、「簡潔」、「読みやすさへの配慮」など、実務翻訳に活かせる内容が各項で扱われています。まんがバージョンもあるようなので、そちらから入るのも良いかも。

 

13. 『形容詞を使わない 大人の文章表現力』 著・石黒圭(日本実業出版社)

普段とっさに使ってしまいがちな形容詞を避けて、他の力のある表現を使えるよう、レトリックと発想法を説明した本。表現が単調になったり、説明が曖昧になったりしがちな人が表現の幅を広げるうえで効果的です。
実務翻訳だと、原文の形容詞をいつでも自由に他の表現に変えてよいわけではないので、直接的に役立つかは未知数な部分があります。とはいえ、「直感的な表現ではなく分析的な表現を選ぶ」「主観的な表現ではなく客観的な表現を選ぶ」といった、本書の根底にある発想を理解することは、翻訳時の表現選択に広い視野を与えてくれるに違いなく、一読の価値があると思います。

 

 

14. 『悪文 [第3版]』 著・岩淵悦太郎(日本評論社)

いろいろな悪文を紹介した本。数多くの悪文を反面教師とすることで、どうやってそれを避ければよいかを学べます。
単語・句の選択のレベルではなく、「文の切りつなぎ」「文の途中での切り方」など、文および文の接続レベルから見た悪文も紹介されている点が優れています。この点、実務翻訳で長い文や長い修飾句をうまく処理できずに苦労している方に特に推奨したい本です。
私が持っているのは日本評論社から出ている元のバージョンですが、フォントが細くてやや読みづらくなっています。そのため、角川ソフィア文庫から出ている文庫版がおすすめです。

 

 

15. 『いちばん伝わる! ビジネス文書の書き方とマナー』 監修・山崎政志(高橋書店)

依頼、通知、案内、交渉、勧誘など、多種多様なビジネス文書の実例をチェックポイント付きで紹介。高い網羅性が魅力です。10万部突破のロングセラーだけあって、豊富な例と丁寧な補足が便利な一冊。
会社で文書作成を担当することが多い方は、手元に置いておいて損はないと思います。実務翻訳では扱わないタイプの文書も多数記載されているので、意外と実務翻訳との親和性は高くないように感じました。
顧客向けメール、社外向け広報文、スライド、社内トレーニング資料など、さまざまな文書を日々、翻訳していますが、企業活動では本当に幅広い文書が作成されているのだと実感しました。

 

 

16. 『論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 「パラグラフ・ライティング」入門』 著・倉島保美(ブルーバックス)

企業研修として日本語および英語のライティングやプレゼンテーションの指導を行っている筆者による本。パラグラフ・ライティングの基礎をわかりやすく説明してくれています。
本書自体もパラグラフ・ライティングの技法を用いて執筆されていて、読みやすく、説明に説得力があります。
本書では、パラグラフの構成や接続、情報の提示順序など、文章構成に主な力点が置かれています。対象読者の設定や目的の設定について説明している文章本と併せて読むとさらに効果的です。

 

17. 『文章は接続詞で決まる』 著・石黒圭(光文社新書)

タイトルのとおり、接続詞についての本。接続詞を細かく分類して一つひとつ説明しています。普段何気なく使っている接続詞の機能を専門家による説明で再確認できます。主な接続詞を網羅しているので、気になったときに参照するという使い方も。
接続詞の機能だけでなく、接続詞の弊害や、その戦略的な使用についても記述があって、効果的な使い方を考えるうえでも役に立ちます。文と文をつなぐ方法、文間の流れをスムーズにする方法はいくつもありますが、まずは基本の手段である接続詞について本書で学ぶとよさそう。

 

18. 『伝わる!文章力が身につく本』 著・小笠原信之(高橋書店)

著者は、多数の著作・訳書を出版し、予備校や文章の学校での教授経験も豊富なジャーナリスト。さまざまな文書に使える80のコツを紹介しています。
1項目を見開き2ページで解説、各項の説明は簡潔にまとまっていて理解しやすいです。挙げられている80のポイントはどれも基本的なもので、文章を書く人間なら誰でも覚えておく価値があると思われます。各章にテーマがあり、テーマごとにまとめられているものの、各項目は基本的に独立しているので、まずは気になった項目から拾って読んでいくこともできます。

 

 

19. 『よくわかる文章表現の技術Ⅰ 表現・表記編』[新版] 著・石黒圭(明治書院)

客観的な分析に基づく、詳細な文章トレーニングの本。取り上げる各項目について、著者が実際に学生に取り組んでもらった課題の結果に基づいて説明しています。文字・表記、文章・談話、文法・表現、発想・レトリック、文体・ジャンルと、日本語の幅広い側面をカバーするシリーズの一巻目。
第一巻は表現と表記について取り扱っています。「読点の打ち方」、「語順の文法」、「主語の省略と表出」、「接続詞の使い方」、「文の長さと読みやすさ」など、実務翻訳者にとって押さえておくとよい項目が多くなっています。
説明が詳細なだけあって、サラッと読めるわけではありません。一般向けのビジネス文章本よりも踏み込んだ内容になっているので、文章術の基本の知識があって、さらに理解を深めたい人向けだと思います。

 

20. 『よくわかる文章表現の技術Ⅱ 文章構成編』[新版] 著・石黒圭(明治書院)

前回紹介したシリーズの2巻目。文章構成について、「文章の線条的性格」と「文章表現に必要な5要素」を意識したとらえ方から説明しています。
各章のタイトルをいくつか挙げると、

  • さわやかな読後感
  • 適切なタイトル
  • 伏線の張り方

などがあり、実務翻訳に直接関係するものは少なそうです。どちらかといえば、小説や物語を書く人の方がピンと来そうな内容が多いかもしれません。ただ、

  • 手際のよい説明
  • 譲歩による説得

など、実用文の作成への関わりが強い章もあるので、それらの章だけ深く読む、というのもありだと思います。

 

21. 『よくわかる文章表現の技術Ⅲ 文法編』 著・石黒圭(明治書院)

『よくわかる文章表現の技術』シリーズの3冊目。テーマは文法。具体的には、受身や否定表現、現在形と過去形の使い分け、指示語の適切な使用法などについて説明しています。
実務翻訳者としての観点からすると、「誤解を招きやすい表現」や「指示語の適切な使用法」、「なぜ受身を使うか」など、いくつかの章が特に役に立つと感じました。
また、最初の章のタイトルは「日本語は最後まで読まなくてもわかる」。このタイトルに「え、そうなの?」と思われた方は、ぜひここだけでも読んでみてほしい。きっと目から鱗が落ちる思いになるはずです。

 

 

22. 『よくわかる文章表現の技術Ⅳ 発想編』 著・石黒圭(明治書院)

シリーズの4冊目です。文章を書く際の発想について、さまざまな点から検討・解説を試みています。
方言についてや起承転結の「転」について、感覚表現についてなど、直接的には実務翻訳には関係が薄い項目が多めになっています。表現や構成といった言語の具体的な面について知識がすでにたくさんある人が、言語の別の面に目を向けてみるために読むのに適しているかもしれません。
また、第11章「言語による発想の違い」は、翻訳を長く仕事にしている人からすると当然のことのように感じる内容も含まれているかもしれませんが、読んでおいて損はないと思います。

 

 

23. 『よくわかる文章表現の技術Ⅴ 文体編』 著・石黒圭(明治書院)

シリーズの5冊目。私(担当者)は未読なので番外編としてご紹介。
明治書院さんの公式ページで目次を確認すると、第3講に「翻訳的発想-翻訳調の文体-」が。「翻訳調とは何か」という問いは、意外と議論の余地があるテーマなので、気になっています。その他、描写の文体や小説の文体、論文の文体、個性的な文体などについて説明しているようです。1巻から4巻まで読んだという方は、ぜひ5巻も読んでみてはいかがでしょうか。

 

以上、一気にたくさんご紹介しましたが、気になる書籍があったらぜひ手に取って見てくださいね!
まだご紹介しきれていない本もたくさんありますので、また後日アップします!