「ローカライズ」という言葉を聞いたことはありますか? 意味としては「その地方らしくする」ことですが、翻訳業界では「文化的表現の変更」を意味する場合があります(注1)。たとえば日本人にとってわかりにくい表現が出てきたら、日本人向けに修正するということであり、機械翻訳にはなかなか難しい領域です。

 

今回の記事は、そのローカライズ作業についてです。翻訳作業で言語を変換した後の、さらに一歩先で行われている作業をご紹介し、そのメリットをご説明します。

 

さまざまなローカライズ

翻訳においては「ローカライズ」を意識する場面がよくあります。最低限のローカライズから、やや高度なものまで、その種類はさまざまです。以下に具体例をご紹介します。

 

単位系のローカライズ

たとえば、カタログなどの中で製品寸法がインチで表記されていたら、メートル法に置き換える必要があります。距離(ヤード)、重量(ポンド)、面積(平方マイルやエーカー)などの単位系も同様です。日本人読者向けに翻訳するなら、単位系のローカライズは必須と言える作業となります(ただし、ディスプレイサイズなど、製品や文脈によっては元の単位のままでよい場合もあります)。

 

URLのローカライズ

翻訳対象の文書にURLが含まれていた場合、これもローカライズすることがあります。たとえば、リンク先ページの日本語版が既に存在しているようなら、URLに「ja-jp」等の文字列を追加するなどして日本語版ページを表示させた方が日本人読者にとって親切です。

 

一般常識面でのローカライズ

非常によく遭遇する例が、ビジネスメールの文面です。ご存知の方も多いかと思いますが、英語圏のビジネスメールは「Hi!」から始まり、短文で用件を述べ、「Regards」などの短い結び言葉で締めます。日本語メールに慣れた目には実にそっけなく、失礼にすら見えかねない形式です。

しかし実のところ、最初の「Hi!」は、間違っても「やあ!」というニュアンスではありません。なぜなら英語圏ではこれで十分にフォーマルな表現であり、けっしてカジュアルに書いているわけではないからです。

このような場合に、文化的な面でのローカライズが必要になります。真面目にローカライズするならこの「Hi!」は「いつもお世話になっております」あたりでしょう。結び言葉も「よろしくお願いいたします」を含めた表現をよく選びます。なお、「こんにちは」という訳も現場ではよく見るのですが、日本語のビジネスメールとしては不自然なので、個人的には妥協案の域を出ないと感じています。

つまり、ローカライズ後は、たとえば以下のような訳になります。あとはお客様のご要望や文脈によって、もっと丁寧になったり、あるいは簡素になったりします。

Hi!
(いつもお世話になっております。)

Today, we are going to annouce that we launced the new product XX.
(本日より、弊社の新製品「XX」が発売されることとなりました。)

ーーーーーーー(中略)ーーーーーーー

Feel free let us know if you have any concerns.
(ご不明点があれば、お気軽にお問い合わせください。)

Regards,
(今後とも、よろしくお願いいたします。)

David
(担当者名)

 

その他、企業ブログの語り口や、企業ホームページの掲載動画など、いずれも日本人からすると語り口がカジュアルすぎる傾向があるので、ローカライズを意識するなら原文のカジュアルさは一旦横に置いて「です・ます調」の敬語文に揃えるのが適切な対応でしょう。実際、体感的にはこのような処理が最も多く採用されています。

 

名詞レベルのローカライズ

たとえば、一般向けの広告宣伝文の中に「ジェイミー・オリバーのような有名人」という表現が含まれていたとしましょう。一体どういう意味でしょうか。

 

実はジェイミー・オリバーさんはイギリスの人気シェフで、有名なテレビタレントなのですが、日本人読者の大半は彼を知らないので、せっかくの例えが無駄になっています。広告宣伝文で、ましてや一般向けなら日本の人気シェフやテレビタレントに置き換える必要があるでしょう。ローカライズの典型とも言うべき処理です。

たとえば著名な料理研究家や料理関連タレントということで、土井善晴さんや、平野レミさん、栗原はるみさんなどが思いつきます。文脈によっては知名度重視で料理人以外の芸能人に置き換えてもよいかもしれません。

もっとも、原文の用途によっては、こんなにローカライズしない場合もあります。社内向け文書や、ジェイミー・オリバーを知っていて当然であろう業界のBtoB文書であるなら、「ジェイミー・オリバーのような有名人」のままでも良いかもしれません。ただ、たとえそのまま訳すとしても、お客様には「日本での知名度は高くない」とご報告したり、代案をご提案したりします。また、文脈によっては「非常に有名なシェフ」と一般化して処理したり、「ジェイミー・オリバーのような有名人(イギリスの人気シェフ・テレビタレント)」のように注釈をつけることもあります。

 

言い回しや慣用表現のローカライズ

一番わかりやすい例はことわざです。「Early bird gets the worm(早起きの鳥は虫を捕まえる)」ということわざが出現したら、文脈的に問題がないかぎりは「早起きは三文の徳」にした方が読みやすくなります(やむを得ず直訳する場合は、既に述べた英日併記などの処理で切り抜けます)。

 

また、ことわざでなくても表現をローカライズする場合があります。たとえば英語には「One of the most…(最も◯◯なうちのひとつ)」という表現があり、日本語のネイティブスピーカーにとっては違和感のある表現とされます。本来、この「最も」はトップとなったもの1つだけに適用される表現で、「そのうちのひとつ」といえるほど沢山の対象は意味しないというわけです(とはいえ、グローバル化や機械翻訳の影響か、最近は日本でも受容され出した気はしますが……)。ここは読者に違和感を覚えさせないためにも、日本語らしい表現を目指したローカライズが必要でしょう。たとえば「トップクラス」、「最高クラス」、「最高級」などに変えて、複数の対象があってもおかしくない言い回しにすれば一定の解決が望めます。

 

ほかにも、「◯◯するより簡単な方法は他にありません」のような言い回しもローカライズするべきだと考えられます。「There is no easier way to ~」という頻出表現を直訳するとこうなるのですが、回りくどさが否めません。日本語にするなら「◯◯するのが最も簡単(な方法)です」等でOKな場合が多いのです。

 

おわりに

日本人にとって読みやすい文章を作るには、多方面に気を配る必要があります。有名なことわざ程度なら機械翻訳でも結果的に対応できる場合はありますが、文化的な違和感というのはあちこちに現れてしまうもので、それらをきちんとケアすれば文章は読者の心にしっかりと届きやすくなり、ひいては企業の評価の向上にもつながるに違いありません。

翻訳をご検討の際はぜひ、お気軽に当社までお問合せください。

 

注1…翻訳作業そのものを指す場合もあります。