AIが翻訳に活用されるようになってからずいぶん経ち、もはや機械翻訳といえばAI翻訳を指す状況になりつつあります(AIが台頭していなかった頃は、用例を集めて参照したり、統計的手法を用いたりしていました。エキサイト翻訳などの混沌とした訳文がしばしば話題になっていた時代です。その後ディープラーニングや、大規模言語モデルと呼ばれる手法も利用されるようになりました)。かつての機械翻訳よりもずっと自然な言い回しができるため、そのインパクトは今もなお増大し続けています。

しかし、AI翻訳は万能ではなく、数々の欠点があります。文章の一部をごっそり無視したり、人間と同じように紛らわしい言葉を勘違いしたり、ひどいときにはまったく逆の意味の文章を作ったりするのです。

このようなAI特有の問題については、多くの翻訳会社や専門家が解説記事を世に送り出してくれているため、詳細な説明はそちらに譲りましょう。この記事ではそれらの欠点を踏まえたうえで、なぜ当社が人間の翻訳にこだわっているのかについてご紹介します

 

顧客の心を動かせるかどうか

当社が最も重視するのは、顧客に「刺さる」日本語です。本来お客様が伝えようとしていた、言葉になる以前のイメージを汲み取り、読者に適した形に整えて言語化することを重視しています。原文の字面だけを処理するAI翻訳では絶対に達成できません。人間の翻訳者が、お客様から提供された資料を自分で読み、分野固有の知識を投入し、高い日本語力を発揮することで、初めて達成できます。原文の情報をざっくりと日本語にしたいだけならば、AI翻訳などを用いたコストカットの余地はあるでしょう。しかし、読み手の心を掴む必要があるなら、人間が手掛けた方が効率的に文意を伝えられるはずです。

 

AIに合わせた文章の限界

AI翻訳の数々の欠点を軽減する方法のひとつに、「AIが翻訳しやすい原文を書く」というテクニックがあります。つまり、始めから原文を具体的かつ文法的に正しい(誤解を恐れずに言えば「機械的な」)文章で書くのです。たとえば、先ほど出現した文章をAI向けに書き直してみると、こういうことになります。

原文:

当社が最も重視するのは、顧客に「刺さる」日本語です。本来お客様が伝えようとしていた、言葉になる以前のイメージを汲み取り、読者に適した形に整えて言語化することを重視しています。

AIが翻訳しやすい文:

当社が最も重視しているのは、顧客の心に強く訴える的確な日本語表現です。顧客が本当に伝えたがっている概念を理解し、読者に合わせた表現を使って翻訳することを重視しています。

個人的には嫌いではないテクニックですが、自然の帰結として、このような文章は無味乾燥で、しばしばぶつ切れの印象もあり、良質な文章にはなりません。誰にでもわかる文章にできはするものの、心を動かせるかというとどうでしょう。原文が本当に伝えたがっていた内容や、購買意欲とニーズに訴えたい部分、独自性を打ち出すための工夫を、ばっさり切り捨てることになりかねません。かといって、工夫を凝らした文章を無理にAI翻訳にかければ、出来上がる訳文は結局よくわからないものになります。理解不能な文章を業務に使えば、顧客や同業他社からの信頼度やロイヤルティは下がりこそすれ、上がりはしないでしょう。

また、AI翻訳向けに文章を書き直す手間と労力(=コスト)も馬鹿になりません。①自然な文章を書く、②翻訳するという2工程で済んでいたのが、①自然な文章を書く、②AI翻訳向けに手直しする、③翻訳するという3工程になるからです。この書き直すプロセスは「プリエディット」(Pre-editing)と呼ばれ、世間に機械翻訳が浸透するはるか以前から翻訳業界では導入のメリット・デメリットが議論の対象となってきましたが、コストなどの面から実用に至っているとは言いがたいのが現状です。

AI翻訳には到達できない読みやすさ

AI翻訳なら自然な日本語が作れる、という印象はもはや不動のものに思えます。しかし、読みやすい文として紹介される訳文の大半は、文構造が比較的わかりやすい一文のみか、前後のつながりがわかりやすい数段落までです。実際の文章をAI翻訳にかけてみると、一文ごとに別々の話をしているような印象になることが多々あります。離れた位置関係の文意を引き継いだ文や、前後のつながりが少し分かりづらい文などは、AI翻訳では対応が難しく、散漫でわかりづらい文章になりがちです。翻訳のプロフェッショナルであれば、文章全体を見渡したうえで、文章同士の関係性も意識しながら翻訳を行うことでしょう。また、AIの訳文に足りない要素を後から補うことは、逆に難しかったりします。新たに文章を作り直さないと、情報を足せない場合が多いからです。

 

まとめ

AI翻訳には数々の欠点があり、一見自然な訳文が出てくるように見えても、ビジネスに使用するには力不足な面が目立ちます。当社は文章を扱うプロとして、貴社のブランドやイメージを落とさず、むしろ高める文章をご提案いたします。お気軽にご相談ください。