こんにちは、テクノ・プロ・ジャパンです。
みなさんは「翻訳支援ツール」や「CATツール」という言葉をご存知でしょうか。翻訳者や翻訳会社に翻訳を依頼しようとしたときにこのような言葉を聞いたことがあるものの、何をするツールなのかよくわからない、といったことはないでしょうか。この記事では、現代の翻訳と切っても切り離せない翻訳支援(CAT )ツールについて、大まかなイメージをご紹介します。
目次
Toggleこの記事でわかること
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- 翻訳支援(CAT)ツールの基礎知識
- CATツールを使うメリット
- CATツールのデメリット
翻訳支援(CAT)ツールとは
翻訳支援( Computer Assisted Translation= CAT )ツールとは、その名のとおり翻訳に便利な機能が詰め込まれたコンピューターソフトウェアであり、業界では「キャットツール」と呼ばれます(参考:Wikipediaの翻訳支援ツールに関する記事)。
CATツールにはさまざまな種類がありますが、共通する機能はおおむね以下のとおりです。
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- ファイル変換機能
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- 原文ファイルの変換:WordやExcel、PDFなどの原文ファイル(「ソースファイル」と呼びます)を、翻訳の作業がしやすい形のファイル(「バイリンガルファイル」と呼びます)に変換する
- 訳文ファイルの生成:ソースファイルの原文を訳文に置き換えた訳文ファイルを生成する(例:ソースファイルがWordファイルであるときに、原文とほぼ同じレイアウトで訳文が入力されたWordファイルを生成する)
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- ファイル変換機能
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- 翻訳の品質を管理する機能:
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- スペルチェック
- 事前定義のルールに基づく検証(例:英数字が半角かどうか、用語集の訳が使用されているか)
- サードパーティの品質管理ツールと連携
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- 翻訳の品質を管理する機能:
言葉だけではイメージがつかみづらいかと思いますので、一般的なCATツールの1つであるTrados Studioのスクリーンショットを以下にご紹介します(CATツールは製品ごとのレイアウトの違いが大きいので、あくまで参考としてご覧ください)。
図中の丸数字は、前述の「翻訳作業の効率を高める機能」の一部に対応しています。これらについて、以下で順番にそのメリットをご説明します。
CATツールのメリット
それでは、先に丸数字付きで示した3つの機能について、それぞれのメリットを具体的にご紹介します。
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- 翻訳作業のためのエディター:原文と訳文を文章単位で左右(または上下)に並べて表示(①)
一般的なCATツールのエディターでは、下図のように原文が文章単位で区切られて表示されます(この表示単位を「セグメント」と呼びます)。
原文と訳文が1対1の対応で表示されるので、「長い段落のうちの1文だけが翻訳されていなかった」のようなミスが起きにくくなります。一見地味ですが、一度この形式に慣れると戻れなくなるくらい快適です。
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- 翻訳メモリ:過去の翻訳を再利用(②)
翻訳メモリとは、ざっくり言えば「原文と訳文をペアにして記録するデータベース」のようなものです(詳しくは弊社の過去記事をご参照ください)。その用途は多岐にわたりますが、主に「過去に翻訳された原文を流用する・調べる」ために活用します。たとえば、次のような原文と訳文が翻訳メモリに登録されているとします。
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- 原文:I am a cat.
- 訳文:吾輩はネコである。
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この状態で、よく似た文章「I am a dog.」に遭遇したとします。すると、CATツールが翻訳メモリを自動で検索して、下図のように「I am a cat.」の訳を教えてくれます。
登録済みの訳をマネして「吾輩はイヌである」と翻訳すれば、ゼロから考える必要がなく効率的です。また、「過去にこの原文はこう訳されていた」という情報を引き継げるので、属人化を防ぐ効果もあります。
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- 用語集:特定の語句に所定の訳を指定(③)
用語集とは、ざっくり言えば辞書のようなものであり、「security=セキュリティ」のように、原文の語句と対応する訳語を定義できます(こちらも、詳細は弊社の過去記事をご覧ください)。CATツールによっては、「security=セキュリティ:コンピューターシステムを保護すること」のように、翻訳に役立つ補足説明を登録することも可能です。
用語集に登録されている語句が原文に含まれていると、下図のようにCATツールに自動で表示されるので、翻訳を効率的に進められます。
商品名や機能名、キャッチコピーなど、訳語を統一したい語句を用語集に登録しておくことで、「コンテンツごとに商品名が違う」のような困った事態を防ぐこともできます。
CATツールで注意すべきポイント
前述のように、翻訳作業が大きくはかどる機能を備えたCATツールですが、注意すべき点もいくつかあります。
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- 高い
CATツールは翻訳機能に特化しているためか、Wordなどの普段使いのツールに比べて高額であるものがほとんどです。たとえば、本稿執筆時点では、Microsoft Officeが約50,000円(買い切り)であるのに対し、前述のTrados Studioの買い切りなら10万円以上となっています。
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- 出力した訳文ファイルのDTP(Desktop Publishing)作業が必要になる
CATツールで出力する訳文ファイルは、あくまでも原文が訳文に置き換えられただけのものです。そのため、ほとんどの場合、訳文ファイルのレイアウトを整えるDTP作業(フォントや改行の調整など)が欠かせません。
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- ソースファイルを見ながら作業する必要がある
原文と訳文が1対1で表示されるのは便利なのですが、裏を返せば、ソースファイルを見ないと元のレイアウトがほとんどわかりません。そのため、ソースファイルなしで翻訳作業を進めると、「見出しが本文のように訳される」、「UIが通常の文章のように訳される」という事態が起きかねません。
なお、最近ではクラウド版のCATツール( PhraseやXTMなど)も登場しています。こうしたCATツールに特有の注意事項としては、以下のようなものがあります。
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- インターネット環境がないと使用できない:通信障害などが起きると翻訳を一切進められない
- 定期/緊急メンテナンスがある:ツールによってはメンテナンス予定が前日(下手をすれば当日)になって知らされる
一般的なCATツール
最後に、筆者がこれまで使用してきたCATツールの中から、主だったものを以下にご紹介します。
- Trados Studio<有料>:RWS社が提供するCATツール。対応ファイルの種類が豊富であり、翻訳だけでなく翻訳メモリ・用語集まわりの機能も充実している。近年ではクラウド機能が搭載されオンラインCATツールとしても使えるほか、プロジェクト管理ツールも提供されている。
- Phrase<有料>(旧称Memsource):Phrase社の提供するクラウド版CATツール(厳密には翻訳管理システム)。翻訳ファイルだけでなく翻訳メモリや用語集などのリソースもすべてオンラインで一元管理できる。さらに、ローカル環境での作業にも対応。
- XTM<有料>:XTM International社の提供するクラウド版 CATツール(厳密には翻訳管理システム)。Phraseと同じく、翻訳ファイルだけでなく翻訳メモリや用語集などのリソースもすべてオンラインで一元管理できる。
- OmegaT<無料>:無料のオープンソースCATツール。機能にクセがあり、有料ツールほど使いやすいとは言えないものの、CATツールがどういうものかを知るには最適。
おわりに
現在では、さまざまな機能を備えたCATツールが豊富に提供されており、その形態や料金体系も千差万別です。本記事を通じて、翻訳作業に欠かせないCATツールに少しでも親しみを感じていただければ幸いです。
なお、テクノ・プロ・ジャパンには各種CATツールに幅広い対応実績があります。「社内ですでに使っているCATツールで翻訳してほしい」などのご要望にも柔軟にお応えしていますので、お気軽にご相談ください。