いやはや、この私が翻訳に関して、人に何かを教えることになろうとはですよ。

唐突に何を言い出すのかという方のために説明しますと、ちょっと前にフェロー・アカデミーさんで単発の講習の機会をいただき、講師を務めてきたのです。写真まで出ちゃってます。

たったの2回とはいえ気が重かったのは、そもそも人前で話したことがほとんどないというばかりではありません。これまでの人生で重ねてきた恥、罪、不義理のすべてが、「お前に表舞台で人を導くような資格があるのか」とささやくのです。

いえまぁ、わかっていますとも。人にものを教える人たちがみな、清く正しく美しく生きているわけではありません。あらゆることを知り尽くしているわけでもありません。指導者や教育者が無謬であるなどと信じてよいのは、若いうちだけ。

すると、私のこのモヤモヤとした思いは結局、何事にもなにがしかの留保を設けておきたい姿勢の表れにすぎないのかもしれません。

ただ、幸いなのは、私に一応の「伝えたいこと」があったという点でした。講演、講座で根本的に大事なのは、話のテクニックじゃないんです。伝えたいことがきちんとあるかということなんです。私には一応それがありました。それとはすなわち・・・

 

チェックでもきちんと翻訳の力を伸ばすことができますよ」ということです。

 

翻訳学校で「最終目標がチェッカー(レビュアー、エディター、校閲者なども含む。以下単に「チェッカー」)」だという人はまずいないでしょう。きっと、できることならみんな翻訳をやりたい。そして、「翻訳がうまくなるためには、実務で数をこなすことが大切だ」というのは事実です。しかし、翻訳の求人には、「実務経験○年以上」といった縛りのあるものが少なくありません。第一歩を踏み出そうにも、その第一歩がかぎりなく狭き門であるという現実が存在します。

これに対して、少なくとも日本では、チェッカーの方が業界に入るハードルが低くなります。その意味で、今回のクラスを受講された方々がフェロー・アカデミーを卒業後、自らのキャリアパスの第一歩としてチェッカーを選択することになる可能性は、それなりに高いと言えるでしょう。少なくとも、卒業後すぐに翻訳者になるよりは高い。

仮にそれが不本意なものであっても、腐ることなく、意欲と希望をもって仕事に取り組むことができるように。ゆくゆくは翻訳をメインでやっていけるような実力をつけるための学習を続けていけるように。そんな内容を心がけたつもりです。もちろん、チェックというテーマの枠は(ギリギリ)守りつつ。

今回のクラスを受講されたみなさんがどのような感想をお持ちになったか、それはわかりません。同じ時間を独学に割くよりも有益だったと感じていただけたのであれば幸いです。

願わくば、今回のクラスをきっかけに弊社を知ってくださり、近い将来、できれば来年にでも、オフィスでお会いできれば、これほど嬉しいことはありません。

このたびはありがとうございました。

 

光留(写真で言うと、おぎやはぎの3人目みたいな方)