当ブログをご覧の皆様、初めまして。古参社員のCHです。今回は「コーヒー」について、ごく個人的なことを書いてみました。
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私がコーヒーを飲むようになったきっかけは、「なんだかカッコいい」だった。
それまで、あまりコーヒーには興味がなかった。子供のころから飲んでいたのは、紅茶だった。といっても高級なものではなく、リプトンの徳用ティーバッグを思いっきり濃くいれたのを、砂糖も入れずに飲むのが好きだった。
大学卒業後、就職のために上京したのだが、やたらと忙しい業界だったので、ほぼ毎週のように休日出勤していた。休日くらいは電車に乗りたくないと、よく独身寮から会社まで250ccのバイクを走らせて出勤していた。週末の都心の道路は空いていて、なかなか気持ちよく走れるのだ。
ある日、明治通りを走っていると、原宿の竹下通りとの交差点近くに、見慣れない緑色の看板の店がオープンしているのを見つけた。看板には、「STARBUCKS COFFEE」と書いてある。なんだか、カッコいいぞ。
とても気になったので、後日、その店に行ってみた。カウンターと少しのテーブルだけの小さな店は、若いお客でいっぱいだった。洗練された外観と内装、見たこともない飲み物の数々、美しくデザインされたカップや紙ナプキン、そして魅力的な物販コーナー。深煎りで渋みのあるコーヒーは、濃い紅茶が好きだった自分にはまさにドンピシャの味だった。かっこいい上に美味しい。すっかり興奮した私は、ロゴ入りのマグカップとゴム製のコースターを買って帰った(このコースターは今でも使っている)。
休日、明治通りにバイクを止めてスターバックスでコーヒーを飲むのが、休日の楽しみになった。そのうち、店で飲むだけでは飽き足らなくなり、豆を買ってきて自宅でコーヒーを淹れるようになった。そのころスターバックスが推奨していた抽出方法が、フレンチプレス(コーヒープレスとも言う)だった。私もすっかり乗せられて、スターバックス印の高価なフレンチプレスと豆を買い込んだ。
購入したフレンチプレスを使ってコーヒーを淹れてみると、ドロリとして濃厚すぎて、正直あまりおいしく感じられなかった。それに、寮の部屋で飲んでも、カフェで飲むような解放感が感じられず、つまらなかった。ときどき、気が向いたときに淹れる程度だった。
その後、会社を辞め、ふらふらした後、運よくテクノプロジャパンという会社に拾われた。翻訳者としてデスクワークにいそしむようになると、午後の眠気覚ましに、そして疲れた頭を休ませるために、再びコーヒーを飲むようになった。
この頃、弊社には立派なキッチンがあったので、自分でコーヒーを淹れていた。フレンチプレスは洗うのが面倒なので、ペーパードリッパーを使うようになった。最初はドバっとお湯を入れるだけの一つ穴ドリッパー(メリタ式)を使っていたが、オーソドックスな三つ穴ドリッパー(カリタ式)を使ってじっくり淹れた方が美味しいと気付いて、そちらを使うようになった。自宅にコーヒーミルを買ったのもこの頃。手動ミルはめんどくさいだろうと思って電動臼式ミルを奮発したのだが、大正解だった。数秒で豆が挽けて、香りの良いコーヒーが飲めるのだから。こいつは10年経った今でも元気に動いている。
革命が起きたのは、円錐形ドリッパー(ハリオ)を試したとき。お湯を注いだときの豆のふくらみが段違いで、驚かされたのを覚えている。美味しいコーヒーを簡単かつ失敗なく淹れられるという意味で、この方式はペーパードリップのひとつの完成形だと思う。
それから、あれやこれやが起こり、なんやかやで時が過ぎて。去年から、長野県東部で暮らし始めた。
軽井沢に、丸山珈琲という有名コーヒー店がある。東京で暮らしていたころから、ときどきその名前を耳にすることがあった。そこで、こちらに住むコーヒー好きな友人と一緒にコーヒーを飲みに行ってみた。
浅間山を望む国道沿いにある、板張りのしゃれた外装の建物。大きなガラス窓の明るい店内で、天然木のテーブルに座ると、大きなメニューを渡される。そこには全世界から集められた「スペシャルティコーヒー」の銘柄がずらりと並んでいる。いずれも国際的な品評会で80点以上のスコアを達成した高品質な豆、らしい。
驚いたのは、注文したコーヒーがすべて、フレンチプレスで出されることだった。コーヒーをカップに移して飲んでみると、すっきりしているのに味が濃く、フルーティで、美味しい。あの寮の部屋で淹れていた、ドロドロのコーヒーとはまったく違う飲み物だった。
豆が違うのは当然としても、豆の挽き方とか湯の温度とか抽出時間とか、いろいろな方法が間違っていたのだろう。20年近く経って、ようやく気付かされた。
最近は、ハリオのステンレスメッシュフィルターの抽出具を使っている。フレンチプレスよりも気軽だし、ペーパーフィルターで淹れるよりも、いろいろな味が強く出てきて、美味しい。
日常の一部と化したコーヒーに、まだ新しい発見があったのは驚きだった。しばらく、この世界で遊べそうだ。