少し間が空いてしまいましたが、次女の手術は無事終わりました。ありがとうございました。術後に特段問題(※1)が起こるようなこともなく、1週間弱で退院し、私の方もこれまでどおりの勤務に戻っています。

(※1)感染症、顔面神経が傷つくことによる顔面麻痺、味覚障害などがありうるそうです。このうち、味覚障害については、次女本人しかわからないので何ともいえませんが。

実は、人工内耳は埋め込んでハイ終わりというわけではなくて、埋め込んだ装置に音の情報を届けるための器具(外装具・体外装置)を、別途装用しないといけません。私も本で読むまで知らなかったのですが、補聴器のような器具を着けなくてもよくなるということは全然ないのです。ですので、耳に機械を掛けているという状況はまったく変わりません。退屈になると口に咥えようとする問題も、相変わらずです。

現在満1歳。これまで補聴器でどの程度音が聞こえていたのかはわかりませんが、あまり聞こえてなかったとすると約1年分のハンディキャップを背負ってしまったことになります。まずは言葉を入れること。いや、その前段階として、そもそも音を刺激として認識させること。たくさん話しかけてやらねばなりません。

さて、以前も書いたとおり、人工内耳を使ったとしても、聴児(健常児)と同等の聴力が得られるわけではありません。程度の差はありますが、軽度ないし中等度の難聴程度に改善するにとどまるのだそうです(※2)。ですから、聴覚障害児に「言葉を入れる」といっても、ただたくさん話しかければよいというのではないらしいのです。が。

(※2)参考までに、この間の検査によると、周波数によっては30~40dbくらいが聞こえている可能性があるとのことでした。本当に軽度ないし中等度です。

その方法については、さまざまな意見があって統一が取れていないようでして、親としてはちょっぴり困惑します。たとえばキューサインと呼ばれるものがあります。これは日本語の子音のみを表現するサインです。手話の指文字とよく似ているのですが、指文字が日本語の音(あいうえお…)のひとつひとつに対応し、「あ」~「ん」までの51種類あるのに対して、キューサインはあ行、か行、さ行などの各行それぞれに1つずつしかありません(※3)。

(※3)教育機関によって若干違います。たとえば、厳密には、「さ」と「し」の子音や、「た」と「ち」と「つ」の子音は同じではありません。その意味で、発音を学ぶという観点では「各行1つ」だと少々問題だと考えることもできます。そのせいでしょうか、発音指導のために子音に応じたサインを使っているところもあるようです。もっとも、日本語の音韻体系を学ぶという意味では、各行に対応させることにも意味がないわけではありません。難しいところです。

子音は音のはじめの短い間しか発音されないうえ、一般に周波数が高いので、母音よりも聞き取りが困難です。そのため、聴覚に障害があると、「おかあさん」と「おばあさん」がどちらも「おあああん」のように聞こえている可能性があります。日本語母語話者の私たちで言うなら、英語を習いはじめたばかりの頃に「TH」と「Z」や「L」と「R」を区別できなかったのと同じでしょうか。音韻体系にそのへんの音の区別が存在しない、ということが起こりうるのです。キューサインを使いつつ話しかけてやれば、自分が今どの子音で話しているかを人為的に明示できるので、聞く側の判別に役立つ(+判別能力を養成できる)というわけですね。

問題は、このキューサインが地域や学校によって違っているということです。たとえば、現在私が住んでいる静岡県には聴覚支援学校が3つあるのですが、それぞれキューサインが異なるそうです。音声言語に方言があるように、手話に地域差があるのはかまいません。しかし、単なるツールであっていつまでも使うわけではないキューサインの統一が取れていないというのは、不便でしかないんじゃないかしらと思うのですよ。

また、そもそもキューサインを使うかどうかも、地域や学校によって異なるようです。特別支援学校が潤沢にあって、本人や親の意向に沿った方針の施設が選べるのであればそれでも問題ありませんが、特別支援学校ってそんなにたくさんあるわけじゃありません。必然的に、住むことになった地域の学校で採用されているやり方に従わざるを得ないのではないか。そんな気がするのですがいかがでしょうか。

その地域に長く住むのであれば、それも良いでしょう。でも、みんながみんなそうではありません。なんらかの事情で転居せざるをえず、転居先の学校の方針が前の学校の方針と全然違っていたら…? ちょっと困るだろうなぁと思っています。今のところ、親として私が色々本を読んで知識を付けて自衛する以外の方策が思いつきませんけれども。

最近の次女は、呼びかけに反応を示すようになってきました。なにせ、これまでは手を叩いても振り向くことが少なく、「本当に聞こえているのかな?」という感じだったわけですから、ようやっと一歩進んだという実感があります。引き続きがんばりたいと思います。

人工内耳の外装具。わかりにくいのですが、耳にかけているものに加えて、頭に磁石でくっついている部分があります。